「WATCHES & WONDERS GENEVA 2026」vol.10 [更新日:2026年4月22日]

今年のカルティエは、ひとつ明確なクエスチョンを突きつけてきました。
それは、
「時計はどこまで自由でいいのか」という問いです。
その答えとして最初に目に入ってくるのが「クラッシュ スケルトン」。

形が歪んでいる・・・それだけで普通は時計として成立しないはずですが、カルティエはそこにスケルトンムーブメントを成立させてきます。
ここでやっていることはシンプルで、「機械に形を合わせる」のではなく、「形に機械を従わせる」
この逆転の順序です。
今年のモデルでは、スケルトン構造そのものがより整理されており、視認性と造形のバランスが一段と洗練されている印象を受けました。
単なるインパクトではなく、“高い完成度で成立させる”点が大きな違いです。
そこから一転して、「トーチュ」に目を向けると、また違うアプローチが見えてきます。

このモデルは一見クラシックに見えますが、そのフォルムは非常に独特です。
トノー型とも異なる、わずかに膨らみを持たせたケースラインは、単純な幾何形状では説明しきれないバランスで構成されています。

左右対称でありながら、どこか有機的な柔らかさを感じさせるこの形は、「理屈ではなく、感覚で成立させている造形」とも言えます。
今年の展開では、このトーチュ特有の曲線をより強調するような仕上げが印象的で、従来以上に“形そのものの美しさ”にフォーカスした見せ方になっていました。
そして、その“バランスを取る力”を日常の中に落とし込んでいるのが、「サントス ドゥ カルティエ」です。


スクエアケース、ビス留めのベゼル、ブレスレット一体型の構造。
要素だけ見るとかなり強いデザインですが、実際に見ると不思議と収まりがいい。
さらに自動巻きによる実用性や装着のしやすさも含めて、 “デザイン性と日常性を両立させている完成形”と言えるモデルです。
今年はダイヤル表現や細部のディテールに微調整が加えられている印象で、大きく変えずに完成度を引き上げる、いわば“熟成のフェーズ”に入っているように感じられました。
一方で、同じサントスでも「サントスデュモン」は全く違う価値を提示しています。

薄く、軽く、構成も最小限。
手巻きムーブメントを採用することで、ケース全体の厚みや重さが抑えられています。
ここでは足し算ではなく、 “どこまで削れるか”という方向の完成度が追求されています。

今年は特に、この“削ぎ落とし”の思想をより強く感じさせる展開で、装飾を加えるのではなく、むしろ引くことで完成度を高めている点が印象的でした。
そして、今年の流れの中で見逃せないのが「ロードスター」です。

このモデルが示しているのは、単なる復刻ではありません。
過去に生まれたデザインを、今の文脈で違和感なく成立させること。つまり、
「ブランドの時間軸そのものをデザインとして扱っている」
ということです。

今回の展示では、ロードスターの持つ流線型の造形が改めて強調されており、当時のデザインが今見ても成立するどころか、むしろ新鮮に映る点が印象的でした。
ここまで見てきますと、今年のカルティエはかなりはっきりした印象を受けます。
それぞれのモデルはバラバラに異なるように見えて、実はすべて同じことをやっている-
-「形を成立させる」
●クラッシュ → 無理な形を成立させる
●トーチュ → 有機的なバランスを成立させる
●サントス → 強い構造を日常に成立させる
●デュモン → 最小構成で成立させる
●ロードスター → 時代を超えて成立させる
スペックで見ると、このブランドは理解しづらい部分があります。
ただし見方を変えると、非常にシンプルです。
「この形、なぜ成立しているのか?」
今年の展示は、新しい機構で驚かせるものではありません。
その代わりに、“カルティエにしかできないこと”を、これ以上ないほど明確に打ち出してきた内容でした。
時計としての完成度はもちろんのこと、“形としての完成度”で勝負するブランド。
その強さと異質さを、改めて実感させられる展示でした。




















































































































































































































